実存主義

実存主義とは、大まかに言えば本質的なことよりも現実のほうが大切だ、とする考え方です。精神分析的な考え方の逆を行くもので、本来の内面や精神がどうかには関わらず、個別具体の現実問題について考えていこうとする姿勢です。

実存主義を用いたカウンセリングは実存主義的カウンセリングと呼ばれます。

これまでのアプローチに比べ、科学・実証的な色合いがなくなり哲学的な方法を取るのが特徴です。

内面よりも現実に目を向け、それに対応していこうとする姿勢は行動主義に近いものですが、行動主義は原則数値化、システム化できる行動をコントロールすることで現実を変容しようとします。一方で実存主義では万物普遍の法則というものに意味を見いださないので、それよりもクライアント自身の心のうちに寄り添い、一人の人間として深く関わることで目的を果たそうとする姿勢を取ります。

 

実存主義の目指す姿

これまでの理論と大きく異なる点は、その思想の目指す状態の違いです。

精神分析でも自己理論でも、なんらかの問題を抱えるパーソナリティや行動を社会的に容認される形に適応することを目指しました。

しかし実存主義では、自らが望むような形で生きることが理想です。社会に合わせる必要はなく、自分の願望にそって自己実現することを目指すのです。

有名な五段階欲求説を提唱したマズローも実存主義の立場に立っています。

また、過去や環境に原因を求めるということをしないのも特徴です。いわばこれまでの理論は周囲の人間や出来事によって今の自分が作られた、と考えますが、実存主義ではそのような状況も自らが選んだことであり、自らが望めばいつでも変えられる、というような考えです。

 

実存主義の歴史

実存主義は、第1次世界大戦後のヨーロッパを中心に広がっていったとされています。

それまでの信仰的・非科学的な考え方から、ダーウィンの種の起源を始めとして科学的考え方が浸透していき、科学による進歩で社会が急速に変化している時代でした。

特に大戦の敗戦国であるドイツでは、科学の進歩の結果による大規模な戦争・敗戦の体験からを科学を信仰することもできず、それゆえ「生きる意味は何か」というようなことを模索する必要性に迫られていました。

キルケゴール

キルケゴール

そんななか「死に至る病」で有名なデンマークのセーレン・キルケゴールを始め、ニヒリズムを説いたフリードリヒ・ニーチェなどの実存主義的な哲学が注目を浴びます。そしてフランスのジャン・ポール=サルトルによってさらに世界中に広まっていきます。

サルトル

ジャン=ポール・サルトル

実存主義は、「実存は本質に先立つ」とする考え方をします。どのような法則よりも個々人の存在が優先されるというような捉え方です。これは全てを神のルールの元に処理しようとしていた時代を含め、国家が強大な権力を元に人間・個人の権利を無視して支配していたことに対する批判ともいえます。

こういった、個々人が今あるがままに存在している状態を認めるということが、実存主義の基本的な考え方です。