前述したように、心理テストの結果は100%こうなります、ということが言えるようなものではありません。したがって、心理テストの結果を元にクライアントにとって有益になるような解釈を行っていく必要があります。通常心理テストを活用したカウンセリングでは、解釈をカウンセラーのみが行うことはしません。
クライアントも心理テストの客観的結果を見て、共に解釈を行っていくのです。
心理テストを利用したカウンセリングでは神経症者だけでなく一般の人にもカウンセリングが広がってきたことを前提としているため、クライアントには一定の的確な判断力が備わっており、問題解決のために共に考えることが有効という考えがあるためです。この点で、心理テストを用いたカウンセリングはキャリアカウンセリングなどの場面でよく登場します。
心理テストの利用に必要な知識
心理テストは科学的データの集合を汎用的で実用的にしたものです。そのため読み取りには原理原則を知っている必要があります。基本的にクライアントには心理テストに対する知識はありませんので、心理テストの原理をカウンセラーは知っている必要があります。
心理テストの結果を解釈したり、心理テストを作成する際に重要なポイントがあります。
- 標準値
- 標準集団
- 信頼度
- 妥当性
- 予測妥当性
標準値
心理テストの結果、点数を読み取る際に必要になる考えです。統計的な考え方で、平均値、中央値などが該当します。また、いわゆる「偏差値」で馴染みの深い標準偏差値、という数値があります。
心理テストの結果、あなたの感情を表現する能力は100点満点中80点です、という得点が出たとします。これを見て、「なかなかいい点数ですね」と早合点してはいけません。心理テストの結果は社会に照らし合わせて解釈しないと意味がありませんので、まず平均値を知る必要があります。平均が50点であれば一般の人よりもその力は優れている、ということになりますし、平均が82点なら人並み、となるでしょう。
このように平均からどれだけ違うか、ということを分かりやすく平均=50としたものが標準偏差値と呼ばれます。したがって標準偏差値を見れば、どの程度平均と比べてその力があるかを見ることができます。
標準集団
標準集団とは、標準値の元になった対象はどういった集団であるか、ということを記述したものです。平均からどれだけ違いがあるかで解釈をできるような説明をしましたが、そもそもその平均がどのような集団(母集団)のデータであるかを考えることが重要です。地方の公立高校での数学の平均点と、都内の有名進学校の数学の平均点は異なるでしょう。そのため、解釈をする際に標準集団は今のカウンセリングをするのに適切かを考える必要があります。
信頼度
心理テストの結果は常に一定ではありません。過去に心理テストのようなものを受けたことがあると思いますが、大抵選択式でどれを選ぶか迷うような問題が多いのではないでしょうか?人間の心理には「はい」「いいえ」の2択では答えられないような「はいとも言えるけど、部分的もしくは場合によってはいいえ」という答えがあります。
例えば「あなたは夫を愛していますか?」という質問には、「喧嘩した直後は大嫌いで別れたいと思うけど、寝顔を見ると愛おしいなと思う」など矛盾した答えを持つ場合も少なくありません。
そのためその日の気分や状況によって結果にある程度の変化が発生するのです。
この結果のずれの程度がどれくらいかを表したものが信頼度です。同じ人に複数回テストを受けさせる、などの方法によりずれの数値を算出します。信頼度が100%という心理テストは存在しませんが、これが極端に低いものはでたらめな心理テスト、と言えるでしょう。
カウンセリングに使える心理テストとして、標準値、標準集団、信頼度が明示されていないものは科学的とは言えず不適切です。カウンセリングを行う場合にこれらのソースがないでたらめな心理テストを用いないように気をつけましょう。
妥当性(内容妥当性)
カウンセリングの対象になる問題について測るのに適した心理テストかどうか、ということです。妥当性がない状態とは、学校になじめるかどうかの適合性を確認するために、家庭に適合しているかを判断するために作られたテストを用いてもずれてしまうというような場合を指します。
予測妥当性
その心理テストによって計測できる特性・因子が、これからの未来に影響することに適用できるかどうか、という点です。
例えば中学校の英語の点数が、社会人になってから英語で仕事ができるかどうかを測るのに使えるかどうか、という点です。
これは科学的プロセスであるので、感覚として使えそうかどうかということではなく、そのテストと現在問題にしている事象に統計的な相関関係があるか、という基準で予測妥当性を判断します。