自己概念と自己一致

自己概念の力は強力です。一度自分はこういう人間だ、というイメージを作り上げると、あらゆる物事を自己概念に合うように解釈します。

 

歪曲と否認

例えば「自分は美しくないから誰にも好かれない」と思い込んでいる女性が、美しくなるためにあらゆる努力し、結果あるときミスコンテストで受賞したとします。ミスコンテスト=美の承認と考えるなら、受賞したその時点で思い込みは解消されるはずですが、自己概念が強力だと「たまたま運がよかったから」「美しさ以外で認められたにすぎない」というように、解釈を曲解します。

このような対応を「歪曲」と呼びます。

歪曲のイメージ

歪曲のイメージ

 

また、「自分は優しくて大人しい人間だ」と思っている人が、ついかっとなって他人に暴言を吐いたとします。このようなときに、「あなたは暴言を吐きましたよね」と指摘されても、「いや、暴言など吐いていない。世の中のためを思って優しく説教しただけだ」など、頑なに認めない場合があります。これを否認と呼びます。

否認のイメージ

否認のイメージ

 

自己一致

自己一致とは、この自己概念を現実をあるがままに理解して正しく自己を認識できる状態で、あるがままに生きることのできる状態のことです。

カウンセリングでは、できるだけ歪曲や否認がない自己一致した状態になるように目指していきます。しかし、自己一致を行うためには自己概念を変える必要がありますが、一度出来上がった自己概念を変えることは容易ではありません。

仮にその自己概念がクライアントの現実に害を及ぼしているものであっても、自己概念を変える、すなわち一時的に自分がいままでの自分でなくなるということで自分を失いそうになることに対する恐怖が働くためと考えられます。

特に認めたくない自己概念の場合は、極端に現在の自己概念を否定する形ではなく、部分的に変化させるような形が望まれます。

 

例えば上記の自分は優しいと思っている人の場合は、暴言を吐いたという事実を受け入れることによって「自分は暴言を吐く危険で衝動的な人物だ」というように認識を変えることは難しくなります。

そのため、「自分は優しくて大人しい人間だが、たまに衝動的になることもある」と認識を微修正してあげることが自己一致をするために必要です。

 

自己一致をチェックする

カウンセラーは、自分自身が自己一致の状態にある必要があります。

自分自身が自己一致の状態にあるのかどうかは、周囲の人に確認しないとわかりません。

本格的なカウンセリングを行う前に、まず自分自身についてどのような人間であるかを、紙に思いつく限りの特徴を書き出してみましょう。
それを、自分をよく知る数名の人にチェックしてもらい、「そう思うか」「そう思わないか」を教えてもらうのがベストです。

カウンセリングを共同で学んでいる人がいる場合は、その人にチェックしてもらうことがよいでしょう。

カウンセラーが自己不一致の状態にあると、カウンセリングにおいて様々な弊害があります。例えば、

  • 怒りがすぐに顔に出るため、共感的に聞く必要のある場面でそれがしにくい傾向がある
  • 家庭を大事にしない価値観に過剰反応してしまうため、そういった内容を話されるとクライアントが恐怖を感じ面接に失敗する
  • 自分はシャイで社交が苦手と思っているが、外から見るとそう見えないのでクライアントが交友関係が上手くいかない際に「私もです」といっても嘘を言っているように思われ、信頼が築けない

など、無自覚な反応をしてしまうために上手くいかない上に、自覚がないのでその原因もわからない、という状態に陥ります。

カウンセラーが自己一致の状態にあれば、例えば「自分は家庭を大事にすることは大切だと思っていて、それに否定的な意見を言われると反応しやすい」ということを自覚できれば、クライアントがそのような話題に移った際に自分がそのような反応をしないように気をつけることが可能です。

このように、まずは自己を適切に自覚している(自己一致)の状態にあることがカウンセラーにとっての条件となるのです。