カウンセリングと理論

前項では心理学の歴史を見てきましたが、心理学は非常に幅が広く、奥が深いものです。カウンセリングを行う際の基本の知識として必要な心理学の理論を見ていきましょう。

理論を適用する際の原則

カウンセリングの目的をクライアントの問題解決を援助することであるとするなら、できる限りそのクライアントにとって効果的なカウンセリングの手法を取る必要があります。

人ぞれぞれ特徴がありますから、感情の接触をしたほうが心を開いて話ができ結果的に上手く行きやすい人もいれば、個人的なふれ合いには興味を持たず、あくまでプロフェッショナルとして分析をしてもらうことを期待して面接に訪れるクライアントもいます。

このときにカウンセラーが特定の理論と手法しか知らないと、クライアントにとっては不適切な手法を取りかねません。その結果問題の解決に失敗したり、ひどい場合には悪化する場合もあります。クライアントはカウンセラーを変えてしまうかもしれません。

特定の理論しか知らない弊害 クライアントのニーズに合わない場合がある

特定の理論しか知らない弊害 クライアントのニーズに合わない場合がある

このようなことを避けるために推奨されるのは、クライアントに応じて適用理論を変える折衷主義という考え方です。

折衷主義のイメージ。手持ちの理論から最も効果的なものを選ぶ

折衷主義のイメージ。手持ちの理論から最も効果的なものを選ぶ

折衷主義の観点に立ち、主要なカウンセリング理論をそれぞれに見ていきましょう。

特定の理論のみを活用するべきではない理由

これまで見てきたように、科学としての心理学は他の自然科学に比べ歴史が浅く、また扱う事象が実験室内での物理現象でなく人間の行動・心理であるため、事実としての資料が少なくなっています。

そのため、科学的に「絶対にこのパターンはこうだ」と言い切れる場面は少なく、それぞれの理論には提唱者の主観的な推論、考えが投影されている場合が少なくありません。いわばカウンセリングに活用する理論として心理学は発展途上であり、唯一絶対の金科玉条は定まっていないという状態なのです。

それでも、それぞれの理論は学問として過去に膨大な数の研究者が試行錯誤した足跡であり、それらを活用することによってカウンセリングを解決に導くための原動力になることは間違いありません。

したがって、現時点で有効とされている様々の理論を知っていることで引き出しを増やし、カウンセリングに生かすことができるというわけなのです。

カウンセリング理論の分類

主要なカウンセリング理論には、次のようなものがあります。

  1. 精神分析的理論・・フロイトの精神分析に基づくが、必ずしもフロイトとは限らない。アドラー、ユング、エリクソン、クラインなどの理論も含めての分類
  2. 自己理論・・ロジャーズの来談者中心療法の基本的理論
  3. 行動療法的理論・・行動主義に基づく理論で、行動カウンセリング、モデリング法など
  4. 特性・因子理論・・・心理テストを用いるカウンセリング
  5. 実存主義理論・・・実存分析、現存在分析など
  6. ゲシュタルト療法・・・前述のゲシュタルト理論に基づく治療理論
  7. 交流分析・・・P/A/Cを中心概念とする療法
  8. 論理療法・・・エリスによる説得的方法

それぞれの理論について、順を追って学んでいきましょう。

 

章末確認問題

この章で学んだことを理解できているか、練習問題で確認しましょう。

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