心理学の歴史は19世紀末にさかのぼります。1879年に実験心理学の父と呼ばれるヴィルヘルム・ヴントによって近代心理学が始まったとされています。
それ以前の心理学は科学的なアプローチよりも、哲学的な思索によって行われていました。
「精神こそ研究意義の最も高いものである」として、経験論的な立場から心の働きを考察した古代ギリシャの哲学者アリストテレスを始めとして、17世紀フランスの哲学者デカルトも近代心理学以前に心理に該当するものを研究していました。「我思う、ゆえに我あり」は有名な言葉ですね。
18世紀になり、イギリスの自然学者ダーウィンの進化論やドイツの物理学者フェヒナーの精神物理学などの科学的アプローチの影響を受け、徐々に心理学にも科学の考え方が浸透していきました。
そこでヴントはこれまでの哲学的アプローチではなく、心の働きを観察することで心を探求しようとする意識主義の立場をとりました。思索ではなく、実験を通じて意識を観察しようとしたところが大きな変化です。また、心には様々な感覚要素があり、それらが結合し集合となりひとつの意識を構成していると考えました。そのため、構成主義、要素主義とも呼ばれます。
心理学の発展
その後、ドイツから発展したゲシュタルト心理学は人間の心はひとつのまとまりであり、要素に分解して考えることはできないと構成主義を批判しました。
プレグナンツの法則と呼ばれる、人間の知覚は簡潔にまとまろうとする考え方がゲシュタルト心理学の基本になっています。
また、行動主義と呼ばれる考え方も台頭してきます。ヴントによって心理学は内面の意識を研究するようになっていましたが、アメリカの心理学者のジョン・ワトソンはその考えを真っ向から否定し、人間の行動は何らかの刺激に対する反応から起こるものであるとし、心理学は行動を科学するものであり内面の意識は気にせずに行動を研究すればよいと主張しました。
同じ頃、ヴントが意識を研究するのに対し無意識に目を向けたのが有名なオーストリアの精神科医ジークムント・フロイトです。フロイトが開拓したこの考え方は精神分析学と呼ばれ、カウンセリングの一つの主要理論になっています。
フロイトは人間の心はエス、自我、超自我に分けられると考えました。エスとは人間が本能的に持っている衝動のことで、自らの意思で制御できないものと考えました。エスの中でもリビドーと呼ばれる性的欲求(性衝動)を重要なものと考え、幼児であってもリビドーが様々な行動や心理を作っていると考えました。
その後、フロイトの理論から影響を受けた様々な心理学が派生していきます。
近年注目を集めるアルフレッド・アドラーの個人心理学や、カール・グスタフ・ユングの分析心理学などです。
このようにして心理学は発展してきましたが、それぞれの心理学の主張は異なり、採用する手法も異なるケースが多くあります。近代心理学の父であるヴントの考え方を理解すれば心理学をマスターできるというものではありません。カウンセリングを行う際には、それぞれの心理学の理論の特徴を踏まえ、適切にクライアントに適用していく必要があります。