カウンセリングと傾聴 ~ コミュニケーションスキル

カウンセリングでの人間関係を構築、維持する際に、言語・非言語に関わらずコミュニケーションのスキルは非常に大切です。

特に、近年はカウンセリングが大衆的になるにつれ、表情や声のトーンなど非言語のコミュニケーションスキルも重要視されつつあります。

カウンセリングのベースとなる理論をどの理論に基づくかによっても程度は変化しますが、感情交流をする際には自分の考えや思考、事実などを的確に相手に伝える必要があります。

コミュニケーションスキルとは

就職活動で最も必要とされるスキルは「コミュニケーションスキル」と多くの企業が挙げていることに始め、日常会話でも「あの人はコミュニケーション力が高くてすごい」というように、社会に求められているスキルであると言えるでしょう。

ですが一般的な文脈でいうコミュニケーションは非常に意味が広く、具体的にどのようなスキルを指しているのか不明瞭です。そのため、どうやってその力を身につけていくのかわかりにくいでしょう。

この章ではカウンセリングを的確に行うためにコミュニケーションスキルを分解し、理解していくことを目指します。

役割関係をこなすスキル、感情交流をこなすスキル

コミュニケーションとはすなわち、前述した「人間関係」を構築するスキルのことを指します。その人間関係はカウンセリングの場合は役割関係と感情交流の2つに分類されることを学びました。

これはカウンセリングに関わらず実はほとんどの場合に共通していることで、人は誰かと接する際なんらかの役割を持っており、それとは別個に感情も持っているはずです。

スーパーのレジで買い物をしている際にやりとりするときも、「店員」「お客」という役割がありますし、職場では「上司」「部下」、家庭では「母親」「息子」というような役割があり、それらを認識した行動を取っているでしょう。
その一方でそれぞれのケースでも、一人の人間としての感情は持っているはずで、店員として接しなければいけないと理解するため基本はマニュアル通り、「お会計は3500円になります」とだけ発言するかもしれませんが、心の中では「綺麗な人だな。連絡先を聞きたいな」と思っているかもしれません。

ここで一言その感情を伝えるような行動、例えば満面の笑みを浮かべながら「今日はいい天気ですね。この食材でバーベキューでもされるんですか?」という発言をすれば、それをきっかけに「店員」「お客」という枠を超えて感情交流が始まるかもしれません。

この例でも見たように、役割関係をこなすためのコミュニケーションと感情交流のためのコミュニケーションは別物と捉えたほうが理解しやすくなります。

傾聴とは

元々はカウンセリングの言葉でしたが、今ではビジネス・コーチングなどの分野で幅広く聞かれるようになった「傾聴」という言葉ですが、本来はどんなものなのでしょうか。

多くの場面では、「傾聴とは相手の話をただ聞くだけではなく、相手の話に共感しながら深く聞き入ること」というような説明がなされます。また、傾聴が重視される場面では

傾聴=問題解決

のように、全ての問題は傾聴ができないことであり、これさえできれば人は理解してくれたという安心感から悩み・問題から解放されるというように強調されることも少なくありません。
これはロジャーズの来談者中心療法でも一部見られる姿勢です。

実際には上で分類したように、カウンセリングの場面でも役割関係と感情交流は別個で、傾聴だけでは役割関係を遂行することは通常できないため、全ての問題を解決できることにはなりません。

上の店員の例で、お客が「すみません、トイレはどこでしょうか?ちょっと急いでいて」とレジで言われた際に、店員が「急いでトイレをお探しなのですね。それは大変です。」とだけ答えたら、どれだけ共感的に聞いてもらっても問題は解決しないでしょう。
極端な傾聴の例ではこのような滑稽な事態が見られることも多々あります。

そして傾聴が「聞く」を重視するために、とにかく聞く姿勢ばかりが重視されてしまいますが、本来コミュニケーションには双方のやり取りがあります。
本来の傾聴には、特に非言語のスキルを中心にこちらが心から共感していて、受容しているということを相手に伝えるという前提が含まれているのです。

傾聴=聞く ではなく、傾聴=相手に自分が味方であることを、感情交流のためのコミュニケーションスキルを使って相手に伝えながら聞く

というように理解したほうが、傾聴の効果を正しく認識できるでしょう。また、傾聴の限界も同時に認識していきながら、役割関係を正しくこなすための知識も身につけていく必要があります。

このような特徴を踏まえながら、感情交流のためのコミュニケーションスキルを見ていきましょう。