記述・説明・変容の違いを理解する

記述・説明・変容が異なるとはどういったことなのか、理解しやすくするために、具体的な例を挙げてみましょう。

現象

実験室内には犬が5匹、監督が1人、助手が3人、被験者が5人います。犬の名前はそれぞれジェニファー、太郎、ワン、マイケル、ドッグで、監督の名前はブライアン、助手はそれぞれミカ、アンジェリーナ、ジョンソンです。気温は17度、湿度は低くて心地よい気候でした。ワンはハンサム犬コンテストで入賞した顔立ちの整った犬でした。

ちなみに、ブライアンの飼い犬です。実験では犬が苦手と事前に答えた被験者がそれぞれどのような反応をするか調べるため、助手と様々な会話をする被験者、目隠しをした被験者、何もしない被験者を分けました。実験はそれぞれの被験者がボタンで「もうやめたい」と意思表示したときに終了します。ボタンは赤い色でしたが、一つだけ色が剥げてしまって黒いプラスチックが表に出ていました。

ミカと被験者A、アンジェリーナと被験者B、ジョンソンと被験者Cが会話し、被験者Dが目隠し、被験者Eは何もしない状態で実験に挑みます。それぞれの実験室は檻で区切られています。この檻はとても冷たいです。

さて、ミカは楽しい世間話を、アンジェリーナは政治の議論を、ジョンソンはひたすら被験者Cの思い出を聞くことをしました。美人のミカとアンジェリーナと会話していた被験者A,Bは楽しそうでしたが、Bのほうがより白熱しているようでした。この状態で犬がカゴから出され、被験者に近づいてきます。太郎は機嫌が悪かったのでいつも以上に吠えていました。マイケルはお腹が空いていたようで、なかなか動きません。

それでもブライアンがなんとか犬をしつけ被験者に近づいて吠えるようにさせると、次第に被験者は恐がり実験を終了したいと希望しました。被験者の意思表示によって実験をやめた順に記すと、被験者D→E→A→C→Bとなりました。

この例のように、実際の現象には話の本題と関係のない情報がたくさん含まれています。

言語情報としてではなく、多くの場合は視覚含む五感で感じる情報がたくさんあります。

この中から必要情報を抜き出して整理すると、記述は例えば次のようになるでしょう。

 

記述

実験室内には犬が5匹、監督が1人、助手が3人、被験者が5人います。

実験では犬が苦手と事前に答えた被験者がそれぞれどのような反応をするか調べるため、助手と様々な会話(それぞれ世間話・政治の議論・思い出話)をする被験者3人、目隠しをした被験者1人、何もしない被験者1人と分けました。実験はそれぞれの被験者がボタンで「もうやめたい」と意思表示したときに終了します。

その結果、最も早く試験を終了したのは目隠しをした被験者で、以降順に何もしない被験者、世間話をしていた被験者、思い出話をしていた被験者、政治の議論をしていた被験者になりました。

少し話の流れが見えやすくなったのではないでしょうか。記述のプロセスではこのように、何が必要でそうでないかの解釈が含まれていることがあります。事実の中から会話の相手をする助手が美人かどうかが重要だと解釈したなら、会話の内容よりもそちらを違いとして記述することもできるでしょう。

したがって、事実の羅列のように見える記述でさえも、必ず1個に決まるとは限らないのです。

 

説明

実験より、会話をしているほうがストレスを感じにくくなり、また会話が白熱する内容であるほど恐怖を忘れるといえる

説明の例は、例えば上記のようになります。これは上記の記述の結果が、どういう意味があるかを解釈したものです。もちろん、その解釈の方法は複数あります。上記の他に、

実験より、目隠しをすると犬に対する恐怖が高まることがわかった

というように表現することもできるでしょう。この2つでは、実験の意味することが異なります。これに対して変容も変化します。

 

変容

上記の説明を元に対策を考えるため、説明が異なれば変容も異なります。「恐怖を忘れるためには、会話をしたほうがよい」となるかもしれませんし、「犬恐怖から逃れるためには、目隠し状態から遠くなるよう視力を高めればよい」と言うことも可能でしょう。

 

この例のように、現象に対する記述・説明・変容は無数にあります。

心理学ではこのような解釈が限定的にできるように、科学的なアプローチをとって心理現象を研究していきます。したがって、これから学ぶ説明や対処法はある程度科学的バックグラウンドがあり、有用ということができます。

一方で、現象を記述・説明・変容するというのはまさにカウンセリングで行うことです。

これらが1つに決まるものではないということをこの例でよく理解していただき、少しのパターンを知っているからといって全ての事象に当てはまると自信過剰にならないよう、注意が必要です。